派手なことはないけれども、実話を元に靴工場を巡る人間模様をしっかりと描く、ハートフルな物語です。この作品には、悪人は出てこない。今の生活が楽だから、無理して変えたくないという気持ちが強いだけ。主人公チャーリー(ジョエル・エドガートン)自身はもちろん、靴工場の従業員たちが、全く異質なドラッグクイーンのローラ(キウェテル・イジョフォー)と出会うことで、前へ踏み出せるようになる姿は微笑ましく、観ていて思わず笑顔になってしまう。
【なんとなくネタバレ】
チャーリーをダメ男というのは言い過ぎかもしれないが、自信のなさげな容貌と急に靴工場を継ぐことでの途方にくれた姿は頼りなさを助長してましたね。リストラ対象のローレンから「僕に何ができる?ばかりで何もしていない!」と告げられたことで、心の中にあった靴工場と従業員をなんとかしたいという気持ちに火がついた。ドラッグクイーン専用のセクシーなブーツを作ることに工場の将来を賭けた。
彼が本当にダメな男なら、リストラする従業員に逆切れされたぐらいでは、何も変わらなかっただろう。婚約者ニックの工場を立て直すよりも売却しようという提案に乗った方がよっぽど楽だし、2人で働けば、ロンドンに一緒に住めるんだから。でも、そこには靴に対する愛情だけではなく、彼のプライドがあったと思う。
ローラも一筋縄ではいかない。ドラッグクイーンでいる間は、自信満々なのに、男装に戻ったときは、女々しいと思われるぐらい自信がなくなる。彼の中には女性に憧れる気持ちがあるにもかかわらず、父から男らしくと育てられてきた反動なのだろう。
新しい靴作りを通して、みんなが少しづつ成長する。
従業員たちはキンキーブーツ作りに誇りを持ち、チャーリーは父の影を払拭して、本当の社長としての信頼を勝ち取る。そして、ローラはちゃんと描かれたいたわけではないけど、ドラッグクイーンとしての自信をさらに深めたのではないでしょうか。
笑ったり泣いたり、なんと言っても共感できる人たちがたくさんいるので、最後まで楽しめると思います。
2006年9月3日(日) OS名画座
キンキーブーツ@映画生活