ベルリンの壁崩壊前の東ドイツというと
「グッバイ・レーニン!」があります。壁が崩壊してからの変化に戸惑う普通の人たちを、せつなさとユーモアで包み、主人公の親を想う気持ちに熱いものがこみ上げてくる作品でした。
今作は、同じ時代の物語でありながら、また違った東ドイツの一面を見せてくれた。徹底した監視態勢で東ドイツ国民をまさに管理していたシュタージ(国家保安省)の仕事っぷりにスポットを当てている。また優秀な職員ヴィースラー(ウルリッヒ・ミューエ)が劇作家ドライマン(セバスチャン・コッホ)と恋人で舞台女優のクリスタ(マルティナ・ゲデック)を監視することで、彼の心に変化が起こってくる・・・
【ネタバレです】
教官として監視者の心得を教える姿や、初めてドライマンを見た時のヴィースラーは、観てる側も嫌な奴だなと思うには十分なほど、どっぷりシュタージに染まっていましたよね。
だけど国や仕事に対して、忠誠を尽くしてきた彼が、家族もいなく娼婦に安らぎを求めるのは、せつなかった。社会主義の世界じゃなければ、勤勉な彼はもっと贅沢な暮らしをしていても不思議じゃないと思えるから。
だから、ドライマンたちの演劇者としての才能や、自由な恋愛に触れることで、何かが違うと気づき始め、ドライマンとクリスタへの憧れのようなものが生まれるのも自然だと思う。
そして、ドライマンが自殺した友人の演出家からもらった「善き人のためのソナタ」を、悲しみとともにピアノで奏でるのを聴いて(もちろん盗聴)、ヴィースラーは涙を流した。良いシーンなんだけど、そこに至るまでの内面の葛藤が見えてこないので、なぜ泣くのかが伝わってこなかった。
ある意味、このシーンが象徴のような感じになってると考えればいいのだろうけど。
実際にこの時代に東ドイツで暮らした人でなければ分からない部分はあるのかもしれないが、ヴィースラーが変わっていく様が、この映画のキモだと思うので、もう少し丁寧に描いて欲しかったなぁ。
全体的にはサスペンス的な面白さもあって、見応えあると思います。
ラストはヴィースラーの行いが、時を経て報われたのは、ホッとしましたね。
全く違う話なんですが、監視する者とされる者と言えば
「キッチン・ストーリー」を思い出してしまいました(^^;
2007年2月18日(日) シネ・リーブル梅田
善き人のためのソナタ@映画生活